スポーツトレーナーに必要なのは「知識」だけではない

【トレーナーに必要なのは知識だけではない】

~自信は「経験」の後からついてくる~

スポーツトレーナーとして活動していると

一度はこんな壁にぶつかります。

「まだ自分には知識が足りない」

「もっと勉強してから指導したい」

「この人を担当して大丈夫かな?」

トレーナーにとって

知識を学び続けることは必要不可欠です。

解剖学、生理学、運動学、栄養学。

そして

トレーニング理論。

学ぶべきことは

いくらでもあります。

しかし

ここで一つ考えておきたいことがあります。

「知識が増えれば、自信も増えるのか?」

じつは

そう単純ではありません。

なぜなら

知識と自信は同じものではないからです。

■ 最初は「馬鹿の山」に登る

トレーナーになりたての頃は

少し勉強するだけで

世界が一気に広がったように感じます。

「なるほど!」

「これが原因だったのか!」

「このエクササイズを使えば改善できる!」

知識が増えることで

自分が成長したように感じます。

もちろん

実際に成長しています。

しかし

この時期には一つの落とし穴があります。

それは

「知っていること」と「できること」を

混同してしまうこと。

例えば

スクワットのフォームについて

たくさん知識を持っていたとしても

目の前にいるクライアントの動きを見て

「なぜこの動きになっているのか」

「どこを変えるべきなのか」

「何を変えてはいけないのか」

まで判断できるとは限りません。

これが

いわゆる「馬鹿の山」です。

知識が増えたことで

自分の理解度を実際以上に高く感じてしまう。

ところが

現場に出ると

教科書通りにはいきません。

同じ体の痛みでも

原因や背景は人によって違う。

同じスクワットでも

身体の使い方が違う。

同じトレーニングをしても

反応が違う。

同じアドバイスをしても

伝わり方が違う。

「人間の身体は、そんなに単純ではない」

そう気づいた瞬間

自分の知識の限界が見えてきます。

■ そして「絶望の谷」に入る

ここからが

本当の意味での

トレーナーとしての成長期です。

「自分は何も分かっていなかった」

「このケースにはどう対応すればいいんだろう」

「もっと勉強しなければいけない」

「自分の判断は本当に正しいのだろうか」

そんな疑問が出てきます。

これを

「絶望の谷」と考えることができます。

しかし

ここで覚えておきたいのは、

「分からない」と気づいたことは

後退ではありません。

むしろ

自分の未熟さを認識できるところまで

成長したということです。

本当に危険なのは

分からないことを

分かったつもりで終わらせてしまうこと。

・分からないから調べる。

・分からないから先輩に聞く。

・分からないからもう一度勉強する。

・分からないから現場で観察する。

そして

次の指導で試してみる。

この繰り返しによって

「知識」が「経験」に変わっていきます。

■ 知識は持っているだけでは武器にならない

トレーナーにとって

知識は非常に重要です。

しかし

知識というのは「道具」なのです。

包丁を持っているだけでは

料理人にはなれません。

車の構造を知っているだけでは

優れたドライバーにはなれません。

同じように

解剖学を知っているだけでは

優れたトレーナーにはなれません。

重要なのは

「知識を現場でどう使うか」です。

例えば

「股関節が硬い」

というクライアントがいたとしても

すぐにストレッチをするのではなく

「なぜ硬く感じるのか?」

「本当に可動域の問題なのか?」

「別の部位の動きが影響していないか?」

「そもそもこの可動域を増やす必要があるのか?」

といろいろ考える。

ここまで考えられるようになると

知識が判断力へと変わっていきます。

■ 「経験」とはただ年数を重ねることではない

ここも

トレーナーが勘違いしやすいところです。

「10年やっています」

だから

必ず優れたトレーナーとは限りません。

なぜなら

経験年数と経験の質は別だからです。

同じことを10年間繰り返している人と

毎回

「なぜこうなったのか?」

「もっと良い方法はなかったか?」

と振り返っている人では

経験値が大きく違います。

つまり

経験とは

時間ではなく「振り返りの量」でもあります。

・現場で指導する。

・結果を見る。

・仮説を立てる。

・修正する。

・また試す。

このサイクルを回している人ほど

経験が知恵に変わっていきます。

■ 失敗しないトレーナーより失敗から学べるトレーナー

トレーナーを続けていれば

必ず失敗します。

・思ったように動作が改善しない。

・トレーニング効果が出ない。

・説明が伝わらない。

・クライアントのモチベーションが下がる。

・自分の判断が外れる。

これは

ある意味で避けられません。

だからこそ大切なのは

失敗をなくすことではありません。

失敗を次の指導にどう活かすかです。

・なぜうまくいかなかったのか?

・自分は何を見落としていたのか?

・別の方法はなかったのか?

・次は何を変えるのか?

この問いを持てる人は

一つの失敗から

一つ以上の経験を持ち帰ることができます。

逆に

失敗を

・クライアントの身体が悪かった

・本人の努力不足

・今日はコンディションが悪かった

と外側だけに原因を求めてしまうと

経験が成長につながりません。

■ 自信がつくのは成功したときだけではない

自信というと

「成功した経験によって生まれるもの」

と思われがちです。

もちろん成功体験は大切です。

しかし

本当の自信は

失敗した後に立て直した経験

からも生まれます。

「前回はうまくいかなかった」

「原因を考えた」

「勉強した」

「方法を変えた」

「今度はうまくいった」

この経験が

次の自信になります。

つまり

自分は何でもできるという自信ではありません。

分からなくても考えて前に進めるという自信です。

これは

トレーナーにとって

非常に大きな財産になります。

■ 啓蒙(けいもう)の坂で起きる変化

経験を重ねると

ある時から

物事の見え方が変わってきます。

初心者の頃は

「この人には、この種目」

と考えていたものが

経験を積むと

「なぜこの人にはこの種目が必要なのか?」

と考えるようになる。 

さらに経験を積むと

「そもそもこの人にこの種目が必要なのか?」

と考えられるようになる。

ここに

トレーナーとしての成長があります。

知識を増やすだけではなく

「何をするか」より「なぜするか」を

考えられるようになる。

これが

「啓蒙の坂」につながっていきます。

■ 本当に怖いのは自信がないことではない

トレーナーにとって

本当に怖いのは

自信がないことではありません。

根拠のない自信を持ってしまうことです。

・自分は正しい

・この方法しかない

・この知識を知っているから大丈夫

そう思った瞬間学びが止まります。

逆に

「 自分の判断は本当に正しいだろうか?」

と考えられる人は

学び続けることができます。

だから

優れたトレーナーほど謙虚です。

何でも知っているから

謙虚なのではありません。

身体の奥深さを知っているからこそ

自分の限界を知っているのです。

■ 分からないと言えることはプロとしての強さ

現場で

「分かりません」と言うことを怖がる人がいます。

しかし

本当に危険なのは

分からないのに「分かります」

と言ってしまうことです。

分からない。

だから調べる。

必要なら

医師や理学療法士など

他の専門家に相談する。

自分の守備範囲を超えているなら

適切な場所へつなぐ。

これは

トレーナーとしての弱さではありません。

クライアントの安全を最優先できる

プロとしての強さです。

何でも自分で解決する

ことがプロではありません。

自分にできることと

できないことを判断できる。

これも重要な専門能力です。

■ 任せてくださいと言えるまでには時間がかかる

最初から

「任せてください」と言える必要はありません。

むしろ

簡単に「任せてください」と

言ってしまうほうが危険です。

・知識を学ぶ。

・現場に立つ。

・失敗する。

・悩む。

・相談する。

・振り返る。

・また学ぶ。

そして

少しずつ対応できるケースが増えていく。

その積み重ねの先に

「任せてください」

という言葉が出てきます。

その言葉の裏側にあるのは

単なる自信ではありません。

これまで

何度も考え、試し、失敗し、

修正してきたという経験です。

だからこそ

その「任せてください」には重みがあります。

■ 今日の現場も未来の自分をつくっている

もし今

自分はまだまだだ

と感じているトレーナーがいるなら

焦る必要はありません。

その感覚は

成長している途中だからこそ

生まれている可能性があります。

・今日担当したクライアント。

・今日うまくいかなかった指導。

・今日答えられなかった質問。

それらは

すべて無駄ではありません。

一つひとつを振り返れば

明日の自分の「引き出し」になります。

知識を学ぶ。

現場で使う。

うまくいかない。

考える。

調べる。

相談する。

修正する。

もう一度試す。

経験になる。

判断力になる。

少しずつ自信になる。

この循環を何年も続ける。

それが

本物のトレーナーをつくっていく道

なのだと私は思います。

■ 最後に

トレーナーは

「知識の多さ」を競う仕事ではありません。

知識は必要です。

しかし知識を現場で使い

人を観察し、考え、

判断し、失敗から学び、

必要なら人に頼り、

また学び直す。

その積み重ねによって

「知っている人」から「判断できる人」へ

変わっていく。
 

そして

その先にあるのが

「任せられるトレーナー」です。
 

自信がついてから

難しい現場に立つのではありません。

難しい現場から逃げずに

考え続けたから自信がついてくるのです。
 

最初から

「継続の大地」に立てる人はいません。

誰もが

「馬鹿の山」を登り、

「絶望の谷」に落ち、

そこから、

「啓蒙の坂」を一歩ずつ登っていく。

だから

今の自分に自信がなくてもいい。

大切なのは

自信がないからやらないではなく

自信がないからこそ学び、考え、経験すること。

その一歩一歩が

いつか必ず、「任せてください」

と言える自分につながっていきます。

知識は

自信を直接つくるものではありません。

知識を現場で使い

経験に変えたとき初めて自信になる。

これが

スポーツトレーナーが成長し続けるための

経験の法則なのかもしれません。

では最後にお待ちかねの川柳です。

知識より 

考え抜いた 

経験値

byくさか